Steve Jobsが逝ってしまった。
実際に見たことはないしあったこともない人だけど、この人のすばらしさは後生語り継がれる人だろうと思う。JobsといえばApple、というくらい切っても切り離せない人物だったが、ここに追悼の意味も込めて、自分とAppleの関わりをまとめてみたい。
初めてApple製品を触ったのは、中学二年生の頃のアメリカへの交換留学の時だった。当時、NYの現地の中学校の教室に置かれていたのがMacintosh IIだった。その中学校は実験中学校的な位置づけだったため、多額の予算が割かれていたのだが、今にして思うとよくぞあんな高級機が教室にあったものだとおもう。直線基調でカラーが表示でき、サクサクと動くMacは強烈な印象を与えてくれたものだった。実際に使ったのは実習時間だけだったので、それほど多くの時間は使っていないが、それでも「アメリカは進んでいる」という印象をものすごく深く印象づけた体験だった。
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NeXT Cube |
高校に入り、神保町にあるキヤノン01ショップなどにちょこちょこかよって、高嶺の花で当然買えるはずもないMacを見たり、当時最先端だったNeXT Cubeなどを見たり使って、友達同士で稚拙なコンピュータ論議をしたりした。その当時、MacにしろNeXTにしろ、自動車がかえるくらいの金額だった。自宅にはEPSONの98互換機があったのだが、どんなコンピュータであれ、そうした体験ができること自体が本当に嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。
大学入学と同時に購入した9801BX2を購入し(弟がけっこうつかっていたため)そのほか中古のEPSONの286マシンでVZエディタと松茸をつかってレポートを書いていたりというような状況だったが、その後IT雑誌の編集部にて働き出したとき、秋葉原のソフマップで中古のIIciを購入して、自分なりにいろいろと使い倒した記憶が強い。RS422のシリアルポート、オーディオはモノラル22kHzで8ビット、今から思うととんでもなくスペックの低いものだったが、当時ではそれでもまだまだ現役のマシンだった。当時MacといえばADBキーボードだったが、実は今の仕事場のキーボードは未だにADBキーボード(Apple Extended Keyboard II)を使っている。その後、PowerBook150などを使いながら、オーストラリアに旅行にいったり、取材をしたりしたものだった。
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NeXT Station |
当時Jobsはアップルにいなかったわけだが、当時Jobsが設立したNeXTがリリースしていたNeXTその後、仕事場でNeXT Stepを使うことになり、初めてNeXT Cubeを使用開始し(その後故障)、次にNeXT Stationを使用して、NeXT関連の記事も執筆したりした。当時どのコンピュータにも標準搭載されていなかったCD-ROMドライブを搭載し、夢にまで見たマシンを使えたことの感動は、筆舌に尽くしがたいものがあった。スペックは、売る覚えだがCPUが68030/33MHz、32MBRAMにHDDが330MB、ネットワークインタフェースは、たしか10Base/2、ディスプレイはグレースケールのメガピクセルディスプレイだったと思う。同時にDTPオペレーションの現場から下がってきたQuadra950なども使っていた。ただ、原稿を書くのは一番保守的なDOS環境で書くことを編集部から命じられていたこともあり(当時まだMacなどは執筆中にクラッシュすることなどがあったから)、DOSマシンであるPC9801 DAも併用していた。
大学に入った頃には、NeXTは既にハードウェアの製造から撤退していており、Intel486ベースのAT互換機で走るOPENSTEPが開発され、私のマシンも次第にOPENSTEPに移っていった。このときにNeXTから発表されていたMulti Architecture Binaryは、考えてみたらMacがIntel化してからつい最近まで使われていたUniversal Binaryそのものだったのではないかと思う。そう考えると20年近く前の93年当時に、既にそうしたテクノロジーを持っていたことに驚嘆せざるをえない。実に先進的でマッドだ。
しばらくしてAppleが互換機ライセンスをサードパーティーメーカーと結んで、モトローラやUMAX、パイオニアやAKIAなどから互換機がリリースされ、私もパイオニアのMPC-LX100というマシンを購入していた。理由としては価格がこなれていたこと、純正MacOSが走ることが保証されていること、そして何よりも音がいいからだった。非常に良いマシンだったが、後に記述するJobsのApple復帰によってOS7以上の継続が互換機では保証されなくなってしまい、結局は短期間で売り飛ばしてしまうことになった。
96年ごろ、当時AppleはCoplandという次世代OSの開発を表明していて、PowerPC化している途中だったのだが、待てど暮らせどこれがでてこない。雑誌でいろんな特集を組んだこともあったが、とにかく開発が迷走しまくっており、Appleからも全く魅力的な製品が出てこない状態だった。
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BeBOX |
そんなときに、元アップルのジャン・ルイ・ガセーが設立したBe社からBeBoxが発売され、同時にUnixベースのBeOSがリリースされた。当時PowerPC603のデュアルCPU搭載のロジックボードで、画期的なOSだったBeOSに、CPUインジケーターが全面についたBeBOXは強烈な印象を一部のマニアに与えた。どうやら当時、680x0系およびPowerPC担当みたいになってしまった私もしばらくレビューを書くことになったのだが、非常にスムーズな動作で、Dockの概念などNeXTに影響されているところもあり、かつそのマルチタスク/マルチスレッドな環境は、未来を感じる強烈なOSだった。今でも紆余曲折を経てHAIKU OSとしてオープンソースとして生き残っている。後で知ることになるが、このBeOSがMacOSの後継OS候補としてApple社とBe社が買収交渉を行っていたのだが、価格が折り合いつかず、Jobsのプレゼンも功を奏してNeXTに軍配が上がったようだった。
そうこうしているうちにNeXTがAppleに買収され、次世代MacOSはNeXTベースになるという話が舞い込んできて(その後、MacOSはOPENSTEPの大部分を受け継ぐ形でMacOSXとなっていった)、97年にJobsが暫定CEOとしてAppleに正式に復帰したのはつい先日のことのように覚えているが、当時はWWCのビデオなどもなかなか視聴できず、編集部におくられてきたダイジェストで内容を知ることが出来るような状態だった。それでも、当時の興奮は本当に忘れられない。同時にMSと提携してIEとOLがMacOSの標準ブラウザ・メーラーになったという衝撃的な出来事も昨日の事のように覚えている。ただ、Jobs復帰の際にAppleの業績回復のためには互換機は悪との結論がくだされ、次期OSはOS7シリーズではなくOS8シリーズと命名されてしまい、強制的に互換機が市場から消されてしまったのは、正直個人的には痛かった。その後、PowerMac7200、初代iMacなどをつかい、この後しばらく業務上の都合の関係でWindowsを使うことが多かったのだが、System9を最後にTigerまでMacはほとんど使わなかった。
2006年3月にMacMini(PPC)を購入して、久々のMacライフに復帰。その後MacBookPro、MacMini(Core2Duo)、MacBook Air(途中にHackingしたMacOSマシンを自作したりMSIのノートパソコンにインストールしていたりしたが)などを使っているが、一度Macに戻ると、仕事でたまに使うことはあっても、Windowsには二度と戻れない体になってしまう。Jobsマジック恐るべしだ。それも、開発に必要な機能は全てそろっており、何も買い足す必要がなく、オープンソースもそろっており、それらが直接ローカルで走る、使いやすくなおかつ直感的な操作感覚で、さらに全てのソフトウエアが連動するため、スムーズな資料作成も可能で、ベクターデータをそのまま扱えるKeyNoteなどもあり、加えてOfficeもあることから、日常業務には全く不便を感じさせず、メリットしかない。TimeMachineで恒常的にバックアップがあるので安心できる。何物にも代えられないメリットづくめだ。今Cocoaと呼ばれているフレームワークは、過去のYellowBoxだったりBlueBoxが名称を変えたモノであり、ずーっと我々はNeXTの系脈を使い続けて現在がある。
ただ、正直に言うとiPhoneは多少疑問を感じる。私もiPhoneを使ってはいるが、クローズドな環境だからこそできることも多々あるのだが、制約が多く、なおかつ不便をかんじることも多々ある。iOS5になってクラウドベースになることが発表されたが、それまではPCと同期しないと出来ない事などが多すぎた感が多々あった。ただ、このiPhoneも、実はJobが過去に設立したNeXTが開発した、現在のMacOSXの原型となっているOPENSTEPのプロセッサに依存しない機能がそのまま残っており、いわばARMむけのOSXのようなもので、そう考えるといま手のひらにあるこのiPhoneも、20年近く前から培われたJobsのテクノロジーが集結していると言っても過言ではない。
全ての製品に対してディレクションを入れ、完璧なまでにこだわり抜き、先進的でありながらそれをクールにまとめて嫌み一つ入れずにきれいにまとめ上げたAppleの製品は、Jobsなくしてはあり得なかっただろうし、ITに関係のない一般の人にまでITを意識させずにITを浸透させたこの功績は、どれだけの讃辞を送っても到底取るに足らないものになるだろう。本当にお疲れ様でした。Requiescat in Pace - Steve Jobs